成功しているカフェ・喫茶店のオーナーを中心に繁盛の秘訣を探るべく「デザインのぼりショップ」がインタビューを行っていきます。自転車を趣味にする友人に、立川から青梅線を辿るように進む多摩川の河川敷沿いの道は風景が良くて、最高に気持ちいいと聞いたことがある。「そうそう、途中には居心地のいいカフェもあって、確か蘖(ひこばえ)といったな。そこのコーヒーがこれまた絶品でさ。あの一杯を飲みに、またあの土手沿いを走りたいくらいだよ」。“蘖”。その聞きなれない名前と、もう1ヶ月前のことなのに、思い出した友人の顔をうっとりさせるほどのコーヒーの味。風景より何よりも、そのお店が気になってしまった。いざ、美味しいコーヒーを! とgoogle mapを頼りに行き着いたのは、本当に“多摩川”の河川敷だった。
その日はあいにくの雨だった。川沿いの土手の道にはひとっこ一人も歩いておらず、寂しいと感じる心の隙間をついたかのように、強烈に吹きさらす。傘で歩いていると、遠くに“冷たいアイスコーヒーいかがですか”というのぼりを発見! そう、この店こそが我らが目指す“蘖”である。冷え切った気持ちの中で目にした灯台の光のように、急激に心がホッと暖かい気分になったのを覚えている。出迎えてくれたのは︎川添ちなみさん。蘖を2016年にオープンした店主である。
サイフォンで淹れる喫茶店で、第二の人生をスタート。
中学生の頃に、当時住んでいた目黒の喫茶店によく行っていたんです。パリッとした白シャツに、チョッキを着た店員さんが入れてくれたコーヒーの美味しかったこと。その所作や、大人の社交場のような雰囲気に憧れ、小さい子が背伸びするような感じでよく通っていました。そして、大学時代になると、下北沢にあったジャズ喫茶「マサコ」に入り浸たっては、スモーキーなジャズに耳を傾け、コーヒーを飲んでは、友達とおしゃべり。私は青春時代を喫茶店とともに過ごしてきたんです。だから、漠然といつかコーヒー屋さんをやりたいなと思ってはいたんですよ。だけど、就職に結婚、子供2人の育児、度重なる夫の転勤に伴う国内、海外への引越しなどの間に、そのささやかな“夢”をいつの間にか忘れてしまっていました。子供が20歳を超え、育児もひと段落し、気持ちに余裕が出てきた頃に、「あぁ、そういえば私の夢は喫茶店をやることだった」と、ふと思い出したんです。その頃、以前住んでいた自宅近くの深大寺付近で小さなログハウスの「とりの木」という、ご主人が脱サラをして始められた自宅カフェに出会いました。そのオーナーさんにご教示を頂き、開業の希望を再び抱いたのを機に、コーヒーの学校に通いました。そこでカフェオーナーになる為の勉強をし、さらにはコーヒーのセミナーにも頻繁に通ったり。とにかく考えうる限りのことは何でもやって。自宅を兼ね、住むにも良い場所選びには大分時間を要しましたね。そして、やっと、目の前には、富士山が見えて、水と鳥の声だけが聞こえる多摩川沿いのこの場所を見つけたんです。引っ越し後、更に7カ月程、開業準備に時間を要し、今年の2月にやっと念願の店をオープンできました。
珈琲店をやるなら、断然サイフォン。それは学生時代のコーヒーに一番近いからという理由なんだそう。
最近だとコンビニのコーヒーのコストパフォーマンスがいいじゃないですか。100円を出せば、それなりに美味しいコーヒーが飲めちゃう。注文してからサイフォンでじっくりと淹れるコーヒーに、家で飲むものやコンビニとはまた違った格別さを感じてほしい。私が学生時代の頃、コーヒーの味以上に、コーヒーを淹れる所作を見て楽しんだように、喫茶というエンタテイメントを感じてほしいなと。あと、サイフォンだとペーパーと違って味にムラが出ないんですよ。だから、いつでも美味しいコーヒーが提供できるんです。それと、ウチはブレンドコーヒーは出さない。やっぱりコーヒーの味は、ストレートで楽しむものだと思っているので。ブラジルの豆やグアテマラの豆を中心に、自分が美味しいと感じたものを仕入れていますね。まだ、お店を始めて間もないから、お客さんの反応と自分で飲んでみて、それでその微妙なその豆の量とかお湯の量とかを日々調整しています。まだまだ試行錯誤している段階です。オススメはゴールデンマンダリン。インドネシアに住んでいたこともあり、現地でよく飲んでいた慣れ親しんだ味というのもあるかもしれないですが、高地産独特の酸味とコクがクセになるんですよ。
のぼりがあるおかげで素通りされずにすみました。
目の前の土手が奥多摩に抜ける道ということもあるかもしれないですが、サイクリストが休憩がてら使ってくれるようになったんです。それもこれも“冷たいアイスコーヒーいかがですか”というのぼりのおかげですね。これがなかったら、うちの店は普通の家にしか見えない(笑)。実はサイフォンのイラストは私が描いたものなんです。お決まりの文句とイラストだけじゃなくて、自由度の高いデザインなのもデザインのぼりショップさんに決めた理由です。ちゃんと人の目に留まるものだから、集客に直結するんでしょうね。コーヒー以外にもランチ限定でご飯も出しているのですが、最初はコーヒーに惹かれて入ってくるお客様も日替わりメニューの充実度に気づいてくれるようになって、地元の人などはそれを目的に通ってくれるようになりました。評判なのはタンシチュー。私が言うのもなんですが、フォークで簡単にホロホロとほぐれるお肉がおいしんです。アイスコーヒーの季節が過ぎたら、次は「タンシチュー、始めました!」というのぼりを作ろうかな。コーヒーと一緒に食べてもらいたい自慢メニューなので!
(DNSニュースレターvol.12 2016/9/18発行分より抜粋)
cafe 蘖
代表者:川添 ちなみ さま
所在地:〒 196-0031 東京都昭島市福島町3-7-3
最寄駅:JR立川駅南口2番バス停よりバスで10分
立川バス:「終点富士見町操車場」下車
西武バス:「昭島団地」下車
バス停より徒歩7分
TEL:042-519-5477
営業時間:平日 11:00~18:00
定休日:月曜日・水曜日