成功しているカフェ・喫茶店のオーナーを中心に繁盛の秘訣を探るべく「デザインのぼりショップ」がインタビューを行っていきます。中米コーヒー専門店。世田谷は深沢にこんな店があったとは! グアテマラやエルサルバドルなどの農園から直接仕入れるという豆は常時10種類。季節ごとに旬の“豆”を入れ替え、毎日「ディードリッヒ」の焙煎機の前に立って、豆を挽く。ここ「カフェ テナンゴ」店主の栢沼良行さんは、そんな作業を繰り返しながら、中南米コーヒーの裾野を広げつつ、私たち日本人にその美味しさを伝える伝道師である。そんな彼のコーヒーを究める道は、いつか“誰でも手に取るように味がわかるコーヒーの本”を出したいと願った17歳の時に始まった。
高校生の時に、コーヒーに突如ハマったんですよ。ハマればハマるほど奥深くて、ワインと一緒で味もフレーバーも多種多様な世界。まずはあれもこれもと飲み比べながら、本や雑誌を読んで、勉強していました。だけど、ある時、本に書かれている味のコメントと、僕が感じた味に対する感想が全然違うことに気づくんです。僕は若いし、まだ舌が肥えてないだろうからと理由をつけて、気にせず、飲み歩きを繰り返すんですが、どんどんと本と実体験が食い違ってくる。これはもしや本の方がデタラメなんじゃないかと思うようになりました。そして、ひとつの夢を思い描くようになるんです。いつか誰にでもコーヒーの味が“読んで”伝わる本を作ろうと。このふと思い浮かんだ妙案がきっかけでますますコーヒーにのめりこむんですが、ただ飲んでいるだけじゃ何もわからない。どうやらコーヒーは焙煎も大事らしいぞと、それを勉強するために「堀口珈琲」に入社。約4年間みっちりと扱かれて、焙煎の知識を習得したのですが、今度はその豆自体のことを知らないとコーヒーのことは語れないんじゃないかとなりまして。豆が採れる畑を自分の目で確かめてみたい。じゃあ、いっその事世界の農園を巡る旅に出ようと、勢いで会社を辞めて、グアテマラに行っちゃったんです。
単身で乗り込んだグアテマラで、コーヒーの奥深さを知った。
僕はコーヒーの中でもグアテマラ産の豆がとくに好きだったんです。だから、ブラジルでもコロンビアでもなく、この場所でした。当初は旅行レベルだったんですが、もし何かいい農園があったら、潜りこんでやろうという気概はありましたね。で、現地に着いてすぐにこの“試み”の景気づけに一杯頂いたんですよ。そしたら、自分がグアテマラのコーヒーの風味はこれだ! と思っていたものと全然違っていて愕然としたんです。というのも、グアテマラの中でも、産地が違ったり、その産地の中でも個々の農園で風味がガラッと変わってきてしまう。さらに言えば、農園の中の区画ごとに、区画の中でも品種が異なれば、当然味も変わってしまう。日本から12,000kmも離れたグアテマラの地で、コーヒーの恐ろしく細分化された世界をまざまざと見せつけられた。これは中米の豆を把握するだけでも恐らく一生かかる。世界の産地を回っている場合じゃない。世界を制覇するのは、まずこの中米を網羅してからだと、次の日からスペイン学校でスペイン語を学び、空いた時間にグアテマラ国内や、エルサルバドルやニカラグアなど近隣の国の農園を見て回るようになるんです。結局、日本とグアテマラを行き来しながら、3年くらい滞在。途中、エルサルバドルのコーヒー豆の品評会の審査員をやったりしたり、いろんな国にホームステイもしました。そこで、中米のコーヒー豆の味のバリエーションの豊かさ、品種の多さ、そして、その狭い地域から生み出されるフレーバーの多様さにさらに魅せられていきました。そして、頭のどこかで、中米産コーヒー豆の専門店を日本で始めたらどうだろうという思いがムクムクと湧き上がってくるんです。
中南米産のコーヒーの旨さを、色んな人に知ってもいたい。
僕が中米で感動したコーヒーの美味しさと多様性をみなさまに味わってほしくて。しかも、まだ中米専門店という形態がなかった。やrなら今だと実店舗とインターネット販売の両方で始めました。毎年1回中米に行って買い付けてくるコーヒー豆を売るのをメインにし、店舗奥のカウンターは試飲スペース。気になるコーヒー豆があったら、淹れますのでお気軽にどうぞ! というスタイルだったんですが、時折、地元の人が「コーヒー、テイクアウトできる?」って喫茶店感覚で来るんですよ。最初はお断りしていたんですが、徐々にその数も増えていったので……、いつしか奥のカウンターも喫茶スペースとして開放し、テイクアウトもできるようにしました。だけど、最初の頃に足を運んでくれて喫茶店じゃないんだ! と認識してしまった地元の人はいまだにコーヒー豆専門店だと思っている。そこで、のぼりを出すようになったんですよ。冷やし中華始めました! ならぬ、“アイスコーヒー始めました!”という意味を込めてのぼりを等間隔に3本並べて出すようにしたら、“昔”は素通りしていたお客様も足を運んでくれるようになりましたし、新規のお客様も増えた。それこそのぼりを出す前と後では2倍も違いましたね。のぼりの効果に驚きつつも、あぁ、ここは喫茶店でもあるんだと、お客様に認知してもらえるようになったのは大きかったですね。日体大がすぐそこにあるので、イベントや大会があると、休憩時間に大勢の学生がテイクアウトしに来てくれたりするようにもなりましたしね。豆の卸しの売り上げも増えています。ウチで扱う豆の中で僕はとくにパカマラ種という大粒の豆が好きなんですが、これがパッションフルーツのようにフルーティな飲み心地なんですよ。一般的なコーヒーの風味とまた違った奥深き世界が小さな豆粒のなかに広がっているだということを、ウチでコーヒーを飲むことで若い人たちの間に自然と浸透していってほしいなとも思いますね。
(DNSニュースレターvol.12 2016/11/11発行分より抜粋)
cafetenango
代表者:栢沼 良行 さま
所在地:〒 158-0081 東京都世田谷区深沢5-8-5NEビル1F
最寄駅:東急田園都市線「駒澤大学駅」より徒歩約20分
東急大井町線「等々力駅」より徒歩約20分
TEL:03-5758-5015
営業時間:平日 10:00~19:30
定休日:毎週水曜、第1・第3木曜日